会長あいさつ

 新型コロナウイルス感染症が第5類に移行し重症化リスクが軽減されるとともに私達の行動様式も徐々に従来の形に戻って来ています。しかし、今月になり定点機関での感染者数が急拡大しており注意が必要です。一方、今夏は猛暑が続き、世界気象機関(WMO)は観測史上最も暑い夏になると報じ、7月7日には世界の平均気温が最高値を更新したと発表しました。グテーレス国連事務総長が言うように地球は温暖化を通り越し沸騰と表現される事態になり、干ばつ、豪雨など気象の「極端化」が大袈裟でなく真に迫ってきます。気象学者もこれは異常ではなく“ニューノーマル”だと警告しています。我が国でも、大規模な洪水の発生など激甚化した自然災害が頻発しています。
 このような厳しい環境の中、会員の皆様にはいかがお過ごしでしょうか。

 さて、貴重な機会でもありますので、信州大学を巡る喜ばしいニュースについて触れておきます。本年4月に文科省令和4年度第2次補正予算「地域中核・特色ある研究大学の連携による産学官連携・共同研究の施設整備事業」に、信州大学が提案した「水・エネルギー共創研究センター」が採択され、大型予算が付きました。国立22、公立2、私立6の計30大学の内の一つに選ばれました。水循環・水由来のグリーン水素エネルギー循環システムの基礎研究から社会実装を推進するものです。材料研究(水浄化・光触媒・センシング材料等)や造水・循環技術を強みとする信州大学と、河川流域環境や燃料電池分野を得意とする山梨大学等との研究連携が組まれ、新拠点が松本キャンパス内に建設・整備されます。
 ところで今回、信州大学の提案が採択された背景には、本学の遠藤守信特別栄誉教授(電気S44卒)が研究リーダーを務められ、今までの10年以上に及ぶCOI(センター・オブ・イノベーション)事業並びにCOI加速支援の研究の成果、即ち「信州大学アクア・イノベーション拠点」におけるナノカーボンRO(逆浸透)膜利用の革新的な海水淡水化技術の研究活動とその成果が貢献しています。その研究の一環として、世界最大級の石油産油国のサウジアラビアの海水淡水化事業を支援してきました。サウジアラビアは世界最大の海水淡水化プラント稼働国で年間約22億㎥の水を海水淡水化によって得ており[参照元: 躍進するサウジアラビアの海水淡水化事業とその歴史|ARAB NEWS外部サイト]、この量は日本の都市用水(生活用・工業用の総和)約252㎥[参照元: 水資源の利用状況 - 国土交通省外部サイト]の8.7%にも当たります。石油収入で潤う同国にあっても、製造コストと環境負荷を低減し造水することは重要課題です。同国海水淡水化公社(SWCC)は、遠藤グループが開発したナノカーボンRO膜の高いロバスト性(耐久性に優れ汚濁され難い)や遠藤先生の研究力そしてオリジナルの拠点設備(製膜ライン)を評価し、更なる共同研究の推進並びに未来人材教育プログラムを展開する「信州大学とサウジアラビア海水淡水化公社間の海水淡水化分野における覚書」(MOU)を締結し、今後の発展を期しています(詳細は信州大学HPトピックス記事や信大NOW vol.141を参照ください)。同国の期待が如何に大きいかが伺われます。

 今後、上記新拠点での国内外の企業との連携やスタートアップ企業の創出による水循環・エネルギー循環・気体循環関連材料の創成、評価、量産化の追求、国内外の社会フィールドでの実証試験が進められます。工学部卒業生などの活動により信州大学が地域で中核となる特色ある研究大学としてさらに発展することが期待されます。

 異常気象がニューノーマルとなれば、治山治水・インフラ・住宅等の強靭化は喫緊の対策です。そしてより根本的な地球温暖化対策である省エネ、再生可能エネルギーの利用拡大、化石燃料の使用量削減を図る研究開発は待ったなしです。高精度気象予測や線状降水帯の元となる積乱雲の流れの制御、洋上での水蒸気の発生を抑える次世代技術の開発にも注目したいです。そのための研究と人材の教育・養成に果たす工学部の使命は極めて大きいと云えましょう。

 本会の目的に沿い、「会員相互の親睦を図ると共に母校の後援と工業の発展に資する」ため、引き続き諸事業を実行して参りますが、それは皆様のご理解と協力無くして達せられません。それぞれの職域や社会において広く活躍されている会員各位が世代や職業の違いを越え、多種多様な情報・経験・知識などを交わし、楽しく魅力的な人的ネットワークで繋がる組織としてこれを築き発展させることの意義はいつの時代にあっても大きいと確信します。
 本年度は、会員の最も身近にある支部活動を強化するため、長らく活動を休止していた中京と関西の支部の再発足を目指し準備世話役会を立ち上げました。5月の支部長会議において、中京および関西の各地域の世話役を選任していただきました。支部設立までには規約の制定、役員体制の構築など時間と労力が必要です。世話役の各位には大変ご苦労を頂くことになります。会員の皆様には一層のご協力とご支援を賜りたくお願い申し上げます。

2023年8月
信州大学工学部同窓会
会長 清水 保雄 (機械 卒S45,修S47)